今年の夏、観測史上最も暑い日が続き、全国各地で熱中症の搬送者が過去最高を記録しました。エアコンなしでは眠れない夜や、大雨による避難勧告など、私たちの生活に影響を与えるこれらの現象は、気候変動が原因かもしれません。この問題を放っておくわけにはいきません。まずは知ることから始めませんか?
気候変動とは?
気候変動とは、気温や気象パターンの長期的な変化を指します。自然現象が原因の場合もありますが、近年の急速な気温上昇は人間の活動が原因だとされています。特に産業革命以降、化石燃料の大量消費が進み、温室効果ガスの排出が増えたことが大きな要因です。その結果、地球の平均気温は産業革命以前に比べ約1.1℃上昇しています。
気候変動の現状
出典:環境省「令和4年版 環境・循環型社会・生物多様性白書」
大量生産・大量消費・大量廃棄の社会によって、大量の温室効果ガスが排出されています。気候変動対策への世界共通の目標として、パリ協定によって温暖化を「1.5℃以下に抑える」ことが目標にされましたが、現在の取り組みでは達成は非常に難しく、数十年以内に3℃の温暖化の可能性も指摘されています。私たちも、日々の生活で温室効果ガス削減に寄与する行動を意識していかなければなりません。
出典:環境省「世界のエネルギー起源CO2排出量」
出典:環境省「世界のエネルギー起源CO2排出量」
2022年の世界の温室効果ガス排出量はCO2換算で574億トンです。2021年の世界のエネルギー起源のCO2の排出量が336億トンなので、計測の対象になっている年が違ってはいますが、約6割を占めていることになります。エネルギー源として化石燃料を燃焼することで発生するCO2が気候変動の最大の原因であると言えます。
「世界のエネルギー起源CO2排出量(2021年)に占めるG20諸国の割合」を見ると、経済活動が活発な一部の国・地域だけで多くのCO2を排出していることがわかります。
「主な国別一人当たりエネルギー起源CO2排出量(2021年)」を見ても、やはり経済活動が活発なアメリカ、ロシア、中国、日本、ヨーロッパ諸国などが多くのCO2を出していることがわかります。
カタール、アラブ首長国連邦、サウジアラビアなどの産油国では、エネルギー価格が非常に低く抑えられていることが多いため、無駄なエネルギー消費も多くなる傾向にあります。また、自家用車の使用率が高いことや、暑い気候であるが故に冷房の使用率が高いこともCO2を多く排出している原因になります。
気候変動がもたらす影響
気候変動が引き起こす問題は、すでに私たちの生活に深刻な影響を与えています。
・猛暑の増加: 熱中症や暑さによる健康被害が増加し、屋外での活動が困難に。
・自然災害の頻発: 洪水や台風などの激しい気象現象が増えています。
・農業への打撃: 干ばつや砂漠化により農地が減少し、食料生産が難しくなっています。
・海面上昇: 沿岸地域や島嶼部では、生活基盤そのものが脅かされています。
これらの影響は特に途上国に深刻な形で現れており、化石燃料を大量消費してきた先進国との間で大きな不公平が生じています。
気候変動の原因
温室効果の仕組み
- 太陽から地球に届くエネルギーは大気を通過し、地表に吸収されます。
- 地表は吸収したエネルギーを赤外線として放出します。
- 温室効果ガスはこの赤外線を吸収し、一部を再放射します。その結果、地表や大気の温度が上昇します。
主な温室効果ガス
- 二酸化炭素(CO2)
化石燃料の燃焼や森林伐採により発生し、排出量が最も多い。 - メタン(CH4)
農業やゴミ処理場から発生し、CO2よりも強い温室効果を持ちます。 - 一酸化二窒素(N2O)
農業や化石燃料の燃焼により発生し、強力な温室効果を持ちます。 - ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)
エアコン、冷蔵冷凍機器などの冷媒により発生し、非常に強力な温室効果を持ちます。
日本における温室効果ガスの排出量の現状
温室効果ガス排出量の推移
出典:環境省 2021年度(令和3年度)温室効果ガス排出量(確報値)について
2014年以降、温室効果ガスの排出量は減少傾向にあり、2021年度の温室効果ガス排出量は11億7000万トンとなっています。要因は、エネルギー消費量の減少(省エネ技術の進展)、再生可能エネルギーの普及や原発の再稼働に伴う電力由来のCO2排出量の減少です。しかし、冷媒におけるオゾン層破壊物質(クロロフルオロカーボンなど)から代替に伴うハイドロフルオロカーボン類(HFCs)の排出量は年々増加しています。HFCsはオゾン層の破壊はしませんが、温室効果が強力なため排出量の削減が求められています。
温室効果ガス排出量のガス種別の内訳
出典:環境省 2021年度(令和3年度)温室効果ガス排出量(確報値)について
日本における温室効果ガス排出量はCO2が占める割合が非常に高く、気候変動対策のためにはCO2の削減が非常に重要であることがわかります。
CO2換算とは:各温室効果ガスが温暖化に与える影響を、CO2と比較して統一的に評価する手法
です。各温室効果ガスの温暖化への影響力は、地球温暖化係数(GWP)を用いて表されます。 CO2を基準(GWP=1)として、他のガスが同じ質量でどれだけの温暖化効果を持つかを表す指標です。IPCCの第6次評価報告書によると、各温室効果ガスのGWPは以下の通りです。ガスが大気中に存在する期間は種類によって違うため、GWPは評価期間によって異なりますが、通常は100年で評価されます。
・メタン(CH4):GWP=27~29.8
・一酸化二窒素(N2O):GWP=273
・ハイドロフルオロカーボン類(HFCs):GWP=771~1526
エネルギー起源のCO2排出量の部門別の内訳
出典:環境省 2021年度(令和3年度)温室効果ガス排出量(確報値)について
電気・熱配分前排出量:発電所や熱供給施設での排出量を、そのままの形で計上したものです。この場合、発電所が発電する際に排出した全てのCO2が集計されます。灯油やガスを使用したストーブや給湯器による燃料燃焼によって直接排出されたCO2が含まれます。
電気・熱配分後排出量:発電や熱供給施設で発生した排出量を、そのエネルギーを使用した各消費者(企業や家庭など)に割り振った排出量です。家電製品の使用などの電力消費によって間接的に排出されたCO2も含まれます。
消費者の目線から考えるときに重要になるのは、配分後排出量です。電気・熱配分後のエネルギー起源CO2排出量を見ると、物理的な物やインフラを提供している産業部門が約4割、サービスを提供している業務その他部門が約2割、運輸部門や家庭部門も約2割と各部門からそれなりにCO2が排出されていることがわかります。
消費者として移動手段や日常生活を見直すことは大事なことだと思うので、運輸部門と家庭部門についてもう少し詳しく見てきます。
運輸部門のエネルギー起源CO2排出量
出典:環境省 2021年度(令和3年度)温室効果ガス排出量(確報値)について
自動車に起因する排出量が全体の8割以上を占めています。マイカーだけでも約3割を占めていることに対し、鉄道が占める割合は0.5割未満と効率的な移動手段であることがわかります。
家庭部門のエネルギー起源CO2排出量
出典:環境省 2021年度(令和3年度)温室効果ガス排出量(確報値)について
健康で文化的な生活を送るためには、排出量削減が難しい部門ではありますが、一人一人がエネルギーの効率化や無駄使いを無くすこと意識しなければ、排出量削減が難しい部門でもあります。私たちが日頃から環境に配慮した生活を送ることが大切だと思います。
メタン(CH4)排出量の排出源別内訳
出典:環境省 2021年度(令和3年度)温室効果ガス排出量(確報値)について
メタンの排出量の約8割が農業に起因していることがわかります。食料を生産するためには多くの環境負荷がかかっていることがわかります。特に畜産業は家畜の消化管内発酵(牛や羊のゲップ)だけでなく、飼育のために飼料として多くの穀物を必要とすることから、間接的な環境負荷も高くなります。食品ロスがどれほどもったいないことをしているのかよくわかります。
環境先進国に学ぶ
北欧諸国と言えば環境問題に対して先進的な取り組みをしていることで有名です。環境問題に対する先進的な取り組みを行う国々から学べることは多いです。
スウェーデン:廃棄物処理とリサイクル
スウェーデンでは、廃棄物の埋め立処理をほとんど行わず(埋め立率1%以下)、リサイクルやごみ発電を積極的に行っています。廃棄物を燃料として利用することで、電力や暖房を供給する仕組みを整えています。デポジット制度があることでペットボトルやアルミ缶の回収率が高くなります。また、生ごみはコンポストで堆肥化されるか、バイオガスプラントで処理されメタンガスの生成に使われます。ごみ発電で使用されるごみは、汚れたプラスチックや紙類などのリサイクルに適さないものが使用されます。
日本においてもごみ焼却施設から発生する熱をエネルギーとして有効利用している施設もありますが、発電所の役割を担えるほど大規模なものはありません。日本では生ごみの多くが焼却処分されていますが、生ごみは水分を多く含むため焼却するには多くのエネルギーを必要とします。生ごみを堆肥化やバイオガス化して資源として利用している点が日本と大きく違います。
デポジット制度とは:ペットボトルやアルミ缶を購入する際に「デポジット料金」(保証金)が商品価格に加算されます。使用後、容器をスーパーなどの回収機に返却すると、このデポジット料金が返金されます。
フィンランド:学校教育
フィンランドでは、学校教育の過程で環境問題を幅広い科目や活動の中で学ぶ仕組みが整っています。その為、学生のうちから環境問題について高い意識を持つようになったといわれています。
社会全体として環境問題に意識が高い点が日本とは違います。
私たちにできること
気候変動対策は大きなスケールで必要とされますが、日常生活の中で私たちができることも多くあります。
- エネルギー効率の向上
・節電を意識する。
・省エネ家電や再生可能エネルギーを積極的に利用する。
- 交通手段の見直し
・自動車の使用を控え、公共交通機関や自転車を活用する。
・短距離移動は徒歩を選ぶ。
- 食品ロスの削減
・必要な量だけを購入し、無駄を出さない。
・残り物を再利用するなど、食品を最後まで使い切る。
- リサイクルと廃棄物削減
・資源ごみの分別を徹底する。
・再利用可能な製品を選び、使い捨てプラスチックを減らす。
- 環境問題について学ぶ
・知識を深め、自分や周囲の意識を高める。
まとめ
地球規模の問題に対して、私たち一人一人ができることは小さいかもしれません。でも、その小さな一歩が集まれば、大きな変化を生み出せるはずです。未来の子どもたちに美しい地球を残すために、自分には何ができることを考え実行することが大切です。
参考資料
もっと詳しく知りたい方は、こちらのサイトが参考になります。
・国際連合広報センター:気候変動とは国連
・気候変動適応情報プラットフォーム
・環境省:2021年度(令和3年度) 温室効果ガス排出量(確報値)について
・環境省:世界のエネルギー起源CO2排出量
・環境省:令和4年版 環境・循環型社会・生物多様性白書
・IPCC 第6次評価報告書 第1部 第7章
コメント