私たちが日々着ている服。その背後に、環境破壊や劣悪な労働環境の問題が隠されているとしたら?
国連開発貿易会議(UNCTAD)は、ファッション業界を“世界で2番目に環境汚染を引き起こす産業”としています。その理由は、膨大な水の使用や温室効果ガスの排出にあります。短いサイクルで大量生産・大量消費が行われるファストファッションは、環境に与える影響が特に大きいです。ファッション業界が抱える問題と解決への取り組みについて、まずは知ることから始めませんか?
ファッション業界の環境への影響
水資源の消費
ファッション業界は年間、約93兆リットルの水を使用しています。これは琵琶湖の約3.4杯分に相当します。衣類の生産過程で多くの水を使用する工程は綿花栽培です。綿花栽培が盛んな地域では、農業用水の過剰利用により水不足に苦しんでいる地域もあり、世界の水不足の問題にも関係しています。
温室効果ガスの排出
温室効果ガスの排出量は約12億トンのCO2に相当しており、航空業界と海運業界を合計したのものより多い量を排出しています。
衣類廃棄の現状
衣類ロスも問題になっています。販売時には、生産した量の約半分が捨てられているといわれています。世界で1年間に生産される量が1億3000万トンに対して、販売時の廃棄も含めると9200万トンの量が廃棄されています。廃棄される衣類の量の多さが問題になっています。
※参考資料
・環境省:ファッションと環境
・BORDERLESS:アパレルの大量廃棄を減らすには?人や環境に配慮した服が当たり前の社会をつくるEnter the E
ファッション業界の課題
ファッション業界の課題
先進国での売れ残りや古着として回収された衣類の一部は、アフリカや東南アジア、南米の国々に輸出されています。古着の需要があり雇用を生んでいる側面もありますが、地域の縫製産業の成長を妨げている側面もあります。
二次流通でも売れ残った衣類が適正に処理されず、環境汚染を引き起こしています。最近では、回収ボックスを置いている店舗を増えてきたため、「着なくなった服が経済的に貧しい地域に寄付できるなら」と思い、自治体や店舗の回収ボックスを利用したことがある人もいるのでないでしょうか?
ファストファッションは品質が悪く再販価値のないものが多いため、結果としてゴミになってしまいます。チリのアタカマ砂漠のようにファストファッション廃棄物の集積地となっている場所がいくつかあります。
※参考資料
・NHK:着られなくなった服の末路とは
・BUINESS INSIDER:ガーナにある「ファストファッションの終着駅」…運ばれた古着の3分の1は埋立地行き
劣悪な労働環境
ファストファッション業界は最新のトレンドを迅速かつ低価格で提供する一方で、労働環境に深刻な問題を抱えています。ファストファッションブランドは生産コストを抑えるために労働力の安価な発展途上国に生産を委託しています。これらの地域では、低賃金で長時間労働を強いられているケースも少なくありません。また、安全基準が守られていない劣悪な環境で労働を強いられているケースもあります。
ファッション業界の劣悪な労働環境を象徴する有名な出来事が「ラナプラザ崩壊事故」です。ラナプラザ崩壊事故は、2013年4月24日にバングラデシュの首都ダッカ近郊のシャバールで発生した建物崩壊事故です。8階建ての商業ビル「ラナプラザ」が崩壊し、1,100人以上が死亡、2,500人以上が負傷しました。犠牲者の多くは、ビル内の縫製工場で働いていた若い女性労働者でした。このビルは、違法な増築や耐震性の欠如が指摘されており、崩壊前日には建物に亀裂が見つかっていましたが、適切な対応が取られませんでした。また、ビル内の発電機や多数のミシンの振動が崩壊の引き金になったとされています。
この事故をきっかけにファッション業界では、労働環境の改善やサプライチェーンの透明性確保に向けた取り組みが進められるようになりましたが、依然として課題が残っています。
※参考資料
・rootus:悲劇から10年。エシカルファッションの原点、ラナ・プラザ崩壊事故とは
・WASABI:真の代償 ファストファッションの労働問題
売れ残りを前提とした過剰生産
ファッション業界では気候や流行の影響を受けやすく、消費者ニーズを正確に予測することが難しいため、販売機会の損失を恐れて多めに商品が生産されます。売れ残った商品に対して「値引き」を行いすぎることで、ブランド価値を損ねる可能性があることや、売れ残り商品の保管にコストをかけることを嫌がり、廃棄した方が良いと考えられる場合があります。こうして大量生産・大量廃棄の構造が作られます。店頭にすら並ばずに廃棄されてしまう服も少なくありません。
※参考資料
・SDGs ACTION:サステナブルファッションとは?背景にある課題や取り組み事例を紹介
リサイクルしにくいファストファッション
リサイクルは基本的に単一素材のものが向いています。しかし、ファストファッションブランドの商品の多くは合成繊維が使用されており、リサイクルには向いていません。
日本における現状
日本で売られている衣類の約98%は輸入されています。縫製工場の多くは人件費の安い発展途上国に多く、それらの地域はインフラの問題などを理由に水不足や水質汚染が問題となっている地域も少なくありません。
出典:環境省 サステナブルファッション
環境省の資料によると日本では、1人あたり35枚ものタンスの肥やしがあるとされています。購入したが結局あまり着ていない服が多くあるということがわかります。僕自身も「安いから買ったけど、結局あまり着なかった」という経験があります。今でこそ、本当に気に入ったものだけ購入し、大切に長く着るようにしていますが、環境問題について真剣に考えるようになる前は無責任な消費行動をしていました。
流行の服が安く買えることは一見良いことのように思えますが、その裏側には「ラナプラザ崩壊事故」が象徴するように、劣悪で過酷な労働環境で働いている人がいます。
環境問題への取り組み
企業における環境問題への取り組み事例を紹介します。
ユニクロ
・ジーンズの仕上げ加工時における水使用量を大幅に削減し、極めて少量の水で仕上げる技術を開発し、水資源の節約に取り組んでいます。
・一部の商品は、回収ペットボトルから作られた再生ポリエステルを素材の一部として使用しており、資源の有効利用に取り組んでいます。
・ダウンジャケットを回収しダウンとウェザーを取り出し、服から服へのリサイクルを実現し、資源の有効活用に取り組んでいます。
無印良品
・回収した服を藍色や黒に染めなおし、新しい価値を持つ商品に再生させた「染めなおした服」や、洗いなおして古着として再販する「洗いなおした服」、服と服をつなぎ合わせて、リメイクした「つながる服」などの販売を行っており、廃棄物の削減や資源の循環化に取り組んでいます。
私たちにできること
ファッション業界が引き起こす環境問題を解決するためには、企業だけが頑張ればよいのではなく、消費者である私たちの取り組みも大切です。普段の生活において私たちができる取り組みを紹介します。
1着を長く大切に使う
購入した服に責任を持ち長く使うことです。少し穴が空いた程度なら縫えばよいですし、外出用ではなく部屋着としてなら使える場合もあります。「これだけ着てもらえば本望」と服に言ってもらえるくらい長く着ることです。
レンタルで楽しむ
レンタルサービスを使用すれば、服を購入しなくても様々なアイテムを試すことができます。サブスクリプション制のレンタルサービスは、色んな服を試してみたい人にお勧めです。
おさがりやリユースショップの利用
サイズや趣味の変化により、まだ着ることのできる服が捨てられてしまうことは非常にもったいないです。兄弟や親戚、友人へ譲ることや、リユースショップを利用して資源の有効利用をすることです。しかし、再販価値のないものをリユースショップへ持って行くと、かえって海外にごみを押し付けることになってしまいかねないので慎重にならなければいけません。
衝動買いを避ける
タンスの肥やしの多さからもわかるように、衝動的な買い物をしてしまうことがあるのではないでしょうか?本当に必要なもの、気に入ったものだけを購入することが大切です。
※参考資料
・環境省:サステナブルファッション
まとめ
私たち一人ひとりの選択が、未来の環境や社会を変える力を持っています。消費行動は選挙のようなものだと、僕は考えています。安価なトレンドに流されるのではなく、「本当に必要なものを選び、長く大切に使う」習慣を始めてみませんか?小さな一歩が、大きな変化を生むきっかけになります。
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