はじめに
世界の情勢がエネルギー価格に影響を与え、私たちの生活に直接関係していることをご存じでしょうか。たとえば、ロシアのウクライナ侵攻や中東の情勢不安は、電気料金やガソリン価格の高騰を引き起こしています。また、国内でも原発利用の是非が選挙の争点となるなど、エネルギー問題が注目されています。
エネルギー問題は環境への影響、経済性、安定供給など多面的に考える必要があり、簡単に「これが正解」と言えるものではありません。しかし、問題を正しく理解し、私たち一人ひとりが考えることが大切です。本記事では、エネルギー問題をわかりやすく解説し、原発の必要性について考察します。
電気の基本と発電方法による特徴
電気の基本
電気の安定供給には、「同時同量」と「蓄電の課題」という二つの課題があります。
同時同量
電力は、使われる量と発電される量が常に一致していなければなりません。例えば、突 然需要が増えたり発電量が減ったりすると停電や機器の故障につながります。このため、発電所ではリアルタイムで需要に応じた発電が求められます。
蓄電の課題
スマートフォンのモバイルバッテリーのような電力を蓄える技術は、依然として大規模なレベルでは十分に実用化されていません。そのため、太陽光や風力などの再生可能エネルギーでは、発電量が天候や時間帯に左右されることが課題となっています。
発電方法による特徴
以下の表で各発電方法のメリット・デメリットを比較します。
このように、それぞれに長所と課題があり、一つの方法で全ての電力をまかなうことは困難です。
エネルギー事情と原発利用
エネルギー供給の動向と内訳
出典:資源エネルギー庁「日本のエネルギー 2023」
出典:資源エネルギー庁「エネルギー白書 2024」
資源エネルギー庁「日本のエネルギー、150年の歴史」を参考に、日本のエネルギー事情の歴史を簡単に説明していきます。
戦後の復興期(1945年~1955年)
経済復興のために限られた資源を特定の産業に優先して配分する「傾斜生産方式」がとられ、石炭産業と水力発電に注力されました。ちなみに、石炭産業は戦前からエネルギー産業の中心でした。
高度経済成長期(1955年~1973年)
1950年代に中東やアフリカで相次いで油田が発見されたことから、石油が世界中で潤沢に供給されるようになりました。しかし、日本では政治的な理由により1962年まで、石油の輸入を自由に行うことができませんでした。1962年に自由化されて以降は、石油の需要は急増しました。急激な経済成長に伴うエネルギー需要の急増と、石炭よりも効率のよいエネルギー源であったことから、日本のエネルギー産業の主役となりました。
第一次石油ショック期~東日本大震災前(1973年~2010年)
1973年には、日本の一次エネルギーの約8割を石油が占めるようになりました。石油ショックを経てエネルギー政策は大きく変化しました。
- エネルギーの多様化
石油に依存したエネルギー体制からの脱却を目指し、原子力発電や天然ガスがエネルギー源として導入されました。
原発の燃料であるウランは、一度輸入すれば、リサイクルして長期間利用できるため「準国産エネルギー」として、地下資源を持たない日本では期待されていました。
天然ガスは世界中に分布しているため、中東に集中している石油に比べるとリスクを分散しやすい特徴がありました。 - エネルギーの効率化
限りあるエネルギー資源を無駄にしないために、エネルギーの効率化が促進された。これが、日本が世界に代表する省エネ技術の始まりです。 - 再生可能エネルギーの活用
地球温暖化問題は、1985年に国連環境計画(UNEP)が警鐘を鳴らしたことで、世界的に認知されるようになりました。日本では、1990年頃から太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーが徐々に導入されるようになりました。
東日本大震災後(2010年~)
石油に依存したエネルギー体制から脱却するために、原発の活用を進めてきた日本ですが、東日本大震災における福島第一原発事故後、国内のすべての原発が順次運転を停止しました。再稼働には原子力規制委員会が制定した新規制基準(2013年施行)を満たすことが必要になりました。廃炉措置を決めた施設もある一方で、再稼働はなかなか進んでいない現状です。技術の向上により再生可能エネルギーの割合が増加傾向にありますが、化石燃料の割合も増加しました。
原発の運転状況
2024年1月時点で、稼働している施設は12基あります。資源エネルギー庁の「日本のエネルギー 2023」には、今後も安全最優先で原発の再稼働を進め、エネルギーの安定供給とカーボンニュートラルの実現を目指す旨が示されています。そして、新たに建設中の施設が3基ある一方、再稼働に向けた議論が続いています。
出典:資源エネルギー庁「日本のエネルギー 2023」
表:既存施設の運転状況
資源エネルギー庁「日本のエネルギー 2023」及び、原子力管理規制委員会「原子力発電所の現在の運転状況」を参考に筆者作成
停止中の炉における色分けによるニュアンスの違い
桃色:再稼働へ向けた準備が進められており、審査が完了している状態。
緑色:再稼働へ向けた準備が進められているが、審査が完了していない状態。
赤色:再稼働の意向がはっきりしていない状態。
エネルギーミックスの重要性
再生可能エネルギーは安全でカーボンニュートラルに有効であるだけでなく、エネルギー自給率を上げる為にも非常に重要です。しかし、DXやAIなどのデジタル化に伴う電力需要の増加が予想される一方で、再生可能エネルギーの供給量は十分であるとは言えない現状です。
原子力発電は発電効率が高く、エネルギー自給率やカーボンニュートラルの面からみれば有効的なエネルギー源ですが、核のゴミの問題や安全面など課題が多いことも事実です。
日本の火力発電施設は高い技術を有しているため、発電効率も高く汚染物質の排出を大幅に削減することができています。
完璧なエネルギー源は存在しないため、安定供給とカーボンニュートラルを両立するためには、各発電方の長所を活かしたエネルギーミックスが必要です。
出典:資源エネルギー庁「日本のエネルギー 2022」
安定して電気を使用するためには、必要な時に必要な量をいつでも発電しておける状態を保っておく必要があります。太陽光発電や洋上風力発電などの再生可能エネルギーは、天候や時間帯によって発電量が左右されるため、安定したエネルギー源にはなり得ないのが現状であり、調整役としても火力発電は重要な役割を果たしています。
世界のエネルギー事情と日本との比較
資料:資源エネルギー庁「エネルギー白書 2024」を参考に作成
資料:資源エネルギー庁「エネルギー白書 2024」を参考に作成
再エネの導入
各国で再生可能エネルギーの活用が進む中、特に欧州は先進的な取り組みで知られています。中でも環境先進国とも言われる北欧諸国は、水力発電や風力発電に適した自然環境を活かして積極的な再エネの導入をしています。
原発利用への姿勢
安全性の懸念からドイツやオーストラリアのように原発利用に後向きの国がある一方で、エネルギーの安定供給とカーボンニュートラルの両立の実現に向けて、アメリカや中国、インド、フランス、イギリス、韓国など原発利用に前向きな国も多くあります。原発利用の廃止を決めたドイツが、原発を積極的に活用しているフランスから電力を輸入しているという矛盾も見られます。
まとめ
エネルギー問題に「完璧な解決策」はありません。それぞれの発電方法に長所と課題がある以上、複数の方法を組み合わせた「エネルギーミックス」が重要です。
日本は地震リスクが高い国であり、原発利用には慎重さが求められます。しかし、CO2削減や安定供給を実現するためには、現状では一定程度の原発活用が避けられません。その一方で、再生可能エネルギーの技術革新や蓄電技術の進展を積極的に推進すべきです。
最後に、私たち個人ができることとして、以下のような行動を提案します。
・再生可能エネルギーを使用した電力プランを選ぶ。
・日常生活での省エネ行動を心掛ける。
・エネルギー問題について学び、選挙や政策に関心を持つ。
このような一歩一歩の取り組みが、持続可能なエネルギー社会の実現につながります。
参考資料
・資源エネルギー庁:エネルギー白書 2024
・資源エネルギー庁:日本のエネルギー、150年の歴史
・資源エネルギー庁:日本のエネルギー 2023
・資源エネルギー庁:日本のエネルギー 2022
・原子力管理規制委員会:原子力発電所の現在の運転状況
・PIVOT:基礎から学ぶ、エネルギー問題①
・PIVOT:基礎から学ぶ、エネルギー問題②
・PIVOT:基礎から学ぶ、エネルギー問題③
・PIVOT:基礎から学ぶ、エネルギー問題④
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