プラスチックの誕生と普及の歴史
最初にプラスチックが発明されたのは1860年代です。当時、ビリアードボールに象牙が使われていましたが、象の減少により供給が安定せずコストも高くなっていました。そこで、アメリカのビリアード用品会社が象牙の代替材料の開発を奨励するために賞金を出しました。これがきっかけで、アメリカの印刷工のジョン・ウェズリー・ハイアットによりセルロイドというプラスチックを開発されました。
その後、1907年にレオ・ベーグランドによってセルロイド以外のプラスチックが開発されました。開発者の名前をとってベーグランドと名付けられました。その後、研究者たちによるプラスチックの開発が進み、1900年代~1930年代には現在でも主流となっているプラスチック製品の多くが誕生していましたが、普及率は高くありませんでした。
1939年に始まった第二次世界大戦時に金属が不足し、軍事的な需要を満たすために代替品としてプラスチック製品が広く活用されるようになりました。戦争中にプラスチックの研究開発が進み、生産能力が向上したため、安価に購入できるようになり、一般家庭にも普及していきました。
日本では、プラスチックの生産量は近年では減少し、年間約1000万トンで横ばいになっていますが、海外に工場が移転したことや輸入が増えたことが原因の一部にあるため、単純に使用量が減ったわけではありません。
世界全体では、プラスチックの生産量は1950年頃から増加の一途をたどっており、現在では年間約4億トンにも及んでいます。これは、毎秒約13トンのプラスチックが生産されている計算になります。
参考資料
※日本のプラスチック生産量の推移:プラスチック循環利用協会「―2022年―プラスチック製品の生産・廃棄・再資源化・処理処分の状況マテリアルフロー図」
※世界全体のプラスチック生産量の推移:statista
プラスチックごみと海洋ごみ問題
プラスチックごみの流出
プラスチック製品は、僕たちの生活には欠かせないものとなりました。とても便利な反面、適正に処理されずに放置されると厄介な存在です。プラスチックは自然界で分解されることなく、半永久的に残り続けます。
既に世界の海には、1億5000万トンものプラスチックごみが存在しており、そこへ少なくとも毎年800万トンのプラスチックごみが海に流入していると言われています。これは、毎分約15トン(軽自動車15台分)のプラスチックごみが流入している計算になります。
太平洋にはカルフォルニア州とハワイ諸島の間の海域に、海流の影響によってごみが集中するエリアがあり、太平洋ごみベルトと言います。非営利団体オーシャンクリーンアップによると、太平洋ごみベルトは160万平方キロメートルと推定されており、日本の面積の約4倍です。太平洋ごみベルトの他にも、4つのごみベルトが存在しています
南太平洋ごみベルト:チリ沿岸とオーストラリアの間の海域
北大西洋ごみベルト:北米とヨーロッパの間の海域
南大西洋ごみベルト:ブラジルとアフリカの間の海域
インド洋ごみベルト:インドからインドネシア、アフリカ東部の間の海域
今のままプラスチックの生産量が増え続ければ、2050年には海洋プラスチックごみが海の魚の量を上回ると推定されています。
参考資料
※WWF 海洋プラスチック問題について
※オーシャンクリーンアップ ホームページ
プラスチックごみの影響
海に流出したプラスチックごみは、海の生き物を傷つけてしまうことがあります。例えば、ウミガメや海鳥がビニール袋をエサと間違えて食べてしまうことがあります。ウミガメが漁網に絡まって溺死してしまうこともあります。
また、波や紫外線によって劣化したプラスチックは細かく砕けていきます。直径5mm以下の小さなプラスチックのことをマイクロプラスチックと言いますが、このマイクロプラスチックも問題になっています。小さな魚がエサと間違えてマイクロプラスチックを摂取し、食物連鎖によって人間の体内にも入ってきます。マイクロプラスチックによる健康への影響は詳しいことはわかっていませんが、無視できる問題ではありません。
日本におけるリサイクルの現状
リサイクルに不向きなプラスチック
まず、リサイクルには向き不向きがあります。リサイクルを考える際に、大切な3つのポイントがあります。
環境負荷:エネルギーや資源を節約できているか
経済性:リサイクルに必要な、工程や人手が多すぎないか
製品価値:リサイクルにより作られた製品の価値はどうか
例えばアルミ缶のリサイクルでは、多くがアルミ缶→アルミ缶に水平リサイクルされています。製品の価値を下げることなくリサイクルでき、原料であるボーキサイトからアルミ缶を作る場合に比べて、エネルギー消費量も大幅に削減できます。
一方で、プラスチック製品のうちペットボトルは、主にマテリアルリサイクル(リサイクルによって新たな製品を作ること)で処理されていますが、その他のプラスチック製品はそうではありません。プラスチックのリサイクルには、同じ種類のプラスチックが大量に必要になります。ペットボトルや白色トレイは多くの地域で分別して回収されていますが、僕らが普段「プラごみ」として出している容器包装類のプラスチックには様々な種類のプラスチックが混ざっているため、その中から同じ種類のプラスチックに更に分別することは非常に手間やコストがかかります。その為、現在のリサイクル技術ではプラスチックはリサイクルには不向きであると言えます。実際、プラごみのリサイクルでは、サーマルリサイクル(燃やしてエネルギーとして利用すること)として処理される割合が圧倒的に多いです。
ここで、勘違いしてほしくないのですが、サーマルリサイクルで処理することに反対しているわけではありません。可燃ごみには生ごみや雑草などの含水量の多いごみも多く、焼却炉では火力を安定させるために燃料として灯油を使用することがあります。石油製品であるプラスチックは良く燃えるので、わざわざ灯油を使うよりプラごみを燃料として使う方が良いと思っています。
(プラスチックによる主なリサイクル製品)
ペットボトル:ペットボトル、シート(食品トレイ、卵パック)、繊維
プラスチック:再生原料(ペレット、フレーク)、パレット
参考資料
※日本容器包装リサイクル協会 リサイクルのゆくえ ペットボトル
※日本容器包装リサイクル協会 リサイクルのゆくえ プラスチック
※プラスチック循環利用協会「―2022年―プラスチック製品の生産・廃棄・再資源化・処理処分の状況マテリアルフロー図」
廃プラスチックの排出量とリサイクルの割合
廃プラスチックの総量は年々減少傾向にあるものの、ほぼ横ばいの状態です。プラスチック循環利用協会のデータによると、2022年の廃プラの総量は823万トン(82億3千万キログラム)となっています。そのうち、マテリアルリサイクルとして利用されている割合は22%(180万トン)に過ぎません。
さらに驚くべきことに、マテリアルリサイクルの内訳を見ると、約30%がプラくずとして海外に輸出され、約40%が再生材料として輸出されています。残りの約30%が国内で循環利用されています。国内でマテリアルリサイクルされている割合が低いことがわかります。
プラくず:ほぼごみのままの状態
再生材料:ペレットやインゴット等の加工された状態
イラスト:プラくず イラスト:ペレット
プラくずの輸出国
以下の表は、日本容器包装リサイクル協会のデータをもとに、2017年~2023年のプラくずの年間の海外輸出量を示したものです。2017年までは、日本のプラくず輸出は中国に大きく依存していました。しかし、経済成長とともに中国国内での廃プラスチックが増加したため、2018年から中国は廃プラスチックの輸入に対して規制を開始しました。
これにより、日本はマレーシアやベトナムなどの東南アジア諸国への輸出を増加させています。以下のグラフは、各年の輸出割合を示していますが、2018年以降、これらの国々への依存が急増しています。
東南アジア諸国への影響
2018年の中国の輸入規制以降、世界中からプラスチック廃棄物がマレーシアなどの東南アジア諸国に流れ込みました。これらの国々では、廃棄物処理インフラが十分に整っていないため、輸入量の急増により処理が追いつかず、違法な廃棄や焼却が発生しています。これにより、深刻な環境汚染や健康被害の懸念が高まっています。
このような問題から2019年にスイスで行われたCOP14にて、廃プラスチックの輸出に関する規制が厳しくなりました。東南アジア諸国も廃プラスチックの輸入に対する規制を強化する動きを見せています。
※COP14(バーゼル条約の第14回国際締約会議):簡単に言うと、「先進国が途上国に不当に廃棄物を輸出することを防ぐための条約」です。
プラくず輸出量
以下のグラフは、日本が年間で海外に輸出しているプラくずの総量を表したものです。2018年以降、中国の規制により輸出量は減少傾向にあります。しかし、多くの国で廃プラスチックの輸入規制が強まる中、日本は自国での処理を強化する必要性が高まっています。それでも、依然として海外への輸出は続いています。
バイオプラスチックの可能性
バイオプラスチックとは、バイオマスプラスチックと生分解性プラスチックの総称のことであり、バイオマスプラスチックと生分解性プラスチックはそれぞれ別の特性があります。
バイオマスプラスチック
バイオマスプラスチックとは、トウモロコシやサトウキビといった生物由来の原料(バイオマス)を一定の割合以上含むプラスチックです。必ずしも、生分解性があるわけではありません。
バイオマス原料にCO2を吸収する効果があるため、カーボンニュートラル性がある点が利点ですが、コストが高いことや食用の穀物生産とのバランスといった懸念点もあります。
バイオプラスチックは、CO2削減に対して効果的であるため、衛生用品のような使い捨てが好ましい製品に対して活用していくことが有効だと思われます。
生分解性プラスチック
生分解性プラスチックとは、自然界の微生物によって、最終的に水と二酸化炭素にまで分解されるプラスチックです。必ずしも、生物由来の原料からできているわけではなく、石油由来のものもあります。 生分解性は、分解される環境条件によって土壌生分解性や海洋生分解性などに分けられます。従って、生分解性プラスチックであっても環境条件によって分解されない場合があります。
生分解性プラスチックは、漁具や農業用マルチなどの使用環境がはっきりしている製品に対して活用することで、海洋プラスチックごみ問題等の観点から有効であると思われます。
参考資料
※日本バイオプラスチック協会 バイオマスプラスチック入門
※日本バイオプラスチック協会 生分解性プラスチック入門
まとめ ~持続可能な未来に向けて~
プラスチックのおかげで僕たちはとても便利な生活を送ることができています。しかし、大量生産・大量消費・大量廃棄の社会を続けていれば、持続可能な未来を迎えることはできません。
プラスチック製品は便利で安価な反面、すぐ捨てられてしまう側面もあります。実際に僕も、「安売りしていたから購入したものの、結局あまり使わなかった。」「まだ使えるけど、どうせ安物だからと少し使用しただけで捨ててしまった。」という経験があります。このような消費行動を見直していく必要があります。リサイクルも大切ですが、そもそもプラスチックはあまりリサイクルには向いていません。バイオプラスチックの技術には希望がありますが、まだ発展途上でありコストも高く、普及率も十分ではありません。各個人がごみを減らししていく意識も持つことが大切です。
最近よく「脱プラ」という言葉を耳にします。先ほど述べたように、プラスチックの量を減らしていくことはとても大切なことですが、衛生用品のように使い捨てが適している場合や充電ケーブルのようにプラスチックが適しているものがあるものも事実です。プラスチックの量を減らしながら賢く使う「スマプラ」を意識していくことが大切だと考えています。
最後に、病気の予防はとても大事なことですが、病気になってしまったら治療が大事です。ごみ問題もそれと同じで、ごみを減らすことは大事ですが、既に存在しているごみを除去することも大事です。この記事を読んでくれた皆さんは、環境問題に対する意識の高い人だと思っています。ぜひ、ごみ拾いを始めてみませんか(^▽^)/
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